何もかもを笑って許せる方のみ先へお進みください。
見てしまった後での苦情は御勘弁を。
両原作のファンの方々へ
「ほんまにめっちゃごめんなさい」























ダンブルドア様の庭に集う(自称)乙女達は、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐりぬけていく。
けがれをしらない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、
白いセーラーカラーはひるがえさないように、
ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ……
私立ホグワーツ女学園、ここは乙女の園…………なワケがない。



ダンブルドアがみてる2



「ごきげんよう」
「ごきげんよう、お姉さま」
放課後のホグワーツ女学園に少女達(多分)の可愛らしい(一部野太い)声が響く。
そんな中、今日も今日とて黒薔薇の館では薔薇様達によるお茶会が開かれていた。
「どうぞお姉さま、こちらは先週インドで買い付けた最高級のダージリンですのよ」
鼻をくすぐる芳しい香りと共に、紅薔薇さまであるリドルに差し出すのは紅薔薇のつぼみであるリリーだ。
次いで紅薔薇のつぼみの妹であるハーマイオニーがふわふわの髪を揺らしながらやって来て、お茶受けの菓子を並べる。
「うん、まあまあだね」
リドルは本に目を通したままで紅茶を一口含むと、舌先に広がる芳醇な紅茶の香りを楽しむ。
「さ、ハーマイオニー。わたくしたちもいただきましょう」
「はい、お姉さま」
リドルの両隣にそれぞれ椅子を引いて腰を落ち着けると、今度はハーマイオニーがリリーに紅茶を淹れて差し出す。
そうして和やかに談笑しながら三人はお茶を楽しむ。
数分後、突如リリーが精緻な唐草模様のティーカップを取り落とす。
俯いて、赤い髪の間から冷や汗を流しながら彼女は湖の淵のような深い翠の瞳をハーマイオニーへ向けた。
「ハーマイオニー……何だかわたくし舌がぴりぴりするようなのですけれど」
「お姉さま!」
「貴女、わたくしの紅茶に何か仕込みまして?
今にも倒れそうな顔色をしながらリリーはそれでも妹へ笑顔を作って問いかける。
そんな姉の様子にハーマイオニーは涙ながらに告白した。
「はい……実は前々から試してみたかった痺れ薬を少々……ごめんなさいお姉さま」
最後は「てへ」と可愛らしく舌を出して笑ってみせた妹に、リリーは引き攣った笑みを見せる。
そんな両隣のやり取りを何食わぬ顔で過ごしていたリドル。
読んでいた本をぱたりと閉じると、涼しい顔で残りの紅茶を飲み干した。
「飲む前に気付かれないようににおいを消したのはいいね。だけど見る限り効果が現れるまでに時間が少しかかりすぎだね。あと、どれくらいの量を入れたのか知らないけど、 少なくとも今は全部飲まなきゃいけないみたいだし。それじゃあリスクが大きすぎる。もっと少量で確実に止めが刺せるようにしなきゃ」
淡々と冷静に事を見分するリドルにハーマイオニーは感激した。
「はいっ紅薔薇さま!次こそは絶対にお姉さまの息の根を止めてみせますわっ
「うふふ……ハーマイオニー、それはわたくしに対する挑戦状と受け取ってよろしいのかしら……」
「リリーも。そう簡単に引っかかるようじゃあ駄目だよ。いつ何時敵に毒を仕込まれるのか解らないからね。この前の白兵戦ではいい反応を見せてたけど、こういった分野は苦手みたいだね」
「すみませんお姉さま……わたくしもまだまだ精進が足りませんわ」
リドルに指摘され、しゅんと項垂れるリリー。
そんな彼女に顔色一つ変えず、
「そうだね。ま、頑張って」
自分で紅茶の御代わりを注ぎながら、リドルは静かに読書を再開した。


「なあ、俺ああいうのに混ざって生きていく自信ないんだけど」
紅薔薇姉妹が明らかに和やかではないムードでお茶を啜っている様を見ながら緑薔薇のつぼみであるシリウスが呟く。
しかしその呟きは『お姉さま』であるリーマスに黙殺され、代わりに空になったティーカップが目の前に差し出された。
「何だよ」
胡乱気にそのカップを見つめ、そうしてそれをこちらに寄越した人物を見上げると、にっこりと麗しい笑顔が返ってきた。
「おかわり。後、僕には敬語使ってね。ムカつくから
「はぁ!?何だよそれ!大体お茶ぐらい自分で淹れられるだろう!?」
「何って、君僕の下僕でしょ?僕の命令には絶対服従のはずなんだけど」
「待て!そんなこといつ誰が容認した!?」
「あ、あのシリウスおじ……えっと、お姉さまも緑薔薇さまも落ち着いて。紅茶なら僕が淹れるから」
姉とさらにその姉との口喧嘩(ほぼ一方的にシリウスが怒っているのだが)を見かねて、ハリーがポットに新しいお湯を注いで来る。
「ありがとう。ハリーは本当に優しいね」
「おまえっ俺との時の態度の違いは何だ!?」
「姉が妹に厳しくするのは当たり前だろう?だけどハリーは僕の孫みたいなものだもの。甘やかして何が悪いの」
しれっと言うリーマスにシリウスはテーブルをばしばし叩きながら「納得いかねーっ!!!!」と叫び出す。
マイペースに紅茶に砂糖をざかざか入れ続けるリーマスと、シリウスを宥めようとおろおろするハリー。
緑薔薇の姉妹にとってはコレが日常なのだった。


そしてそれらをじーっと見つめる一人の人物がいた。
テーブルの端に、一人分のお茶とお菓子。
目の前には三人ずつ揃った紅薔薇姉妹と緑薔薇姉妹。
しかしホグワーツ学園の薔薇は三つある。
残りのひとつである紫薔薇。
紫薔薇さまであるルシウスは、ひとり寂しく目の前で繰り広げられる他の薔薇姉妹の様子を恨めしげに見つめていた。
何故紫薔薇さまが一人かというと、答えは簡単だ。
ルシウスには妹がいないからである。
薔薇さまと言えば、それだけで学園中の憧れの的のはずなのだが、どういったわけかルシウスには妹が出来ない。
「………何故だ」
白い磁器で出来たカップを握りつぶしそうになりながら低い声で唸る。
「何故わたしには妹ができないんだっ!?」
がたん、とその場に立ち上がり大声で叫びだす紫薔薇さまだったが、



「うるさいよルシウス。読書の邪魔だ」



機嫌を損ねた紅薔薇さまにより、窓の外へ放り出された。
植え込みに頭からつっこみ、頬や太い腕に引っかき傷をいくつも作りながらそれでも紫薔薇さまは咆哮する。
「どうしてわたしには『お姉さま(はぁと)』と呼んでくれる可愛い妹ができないんだーっ!?」
「うるさいなぁ」
その大声に眉を顰めた緑薔薇さまが、窓の下に淹れ立て熱々ほぼ熱湯の紅茶を流し込む。
外から熱いっ!?熱いぞ!?とかいう叫び声が聞こえた気がしたが、窓を完全に閉め切ったため、よく聞こえなかった。
「ごめんねハリー。紅茶零しちゃったからもう一杯もらえるかな?」
にっこりと微笑むリーマスに、シリウスは顔面蒼白になりながら「この人物にだけは逆らうまい」と誓いを胸に秘めたとか。









Close